シリーズ/死後の動物達 「母猫の愛」

シリーズ死後の動物達

 

 

 母猫の愛 

 

愛猫を亡くされた方からご相談がありました。

数日前から、なぜかやたらによく鳴いていたのが気になってはいたそうですが、それ以外、前日前夜まで、特に何か変わったことがあった訳でもなく、朝起きた時には既に息絶えていたという、突然の予期せぬお別れでした。

 

もうすぐ19才になる高齢の猫ではあったものの、いまだ食欲旺盛。持病も無く、まだまだ元気だったことから、もっと長生きしてくれるだろうと、いつか来るお別れもずっと先のことのように思っていただけに、ご相談者Aさんのショックもかなりのものでした。

この亡くなった猫、キコちゃん(メス)にはアコちゃん(メス)という生まれた時からずっと一緒の姉妹の同居猫がいます。
(プライバシーに配慮して名前は仮名にしています)

 

この二匹とAさんの出会いは約19年前。

当時住んでいたマンションで、彼女がご主人と共にくつろいでいた夜も更けた時間帯。
周りの喧騒もすっかり消えた静かな街のどこからか、子猫の声がしていることに気付きます。
初めは特に気には留めず、片付けなどしだしたものの、一段落ついても、か細いその声はまだ聞こえています。

 

一度は床についたものの、何かを訴えるような、助けを求めるような、そんな声がどうにも気になり、もう何時間も鳴き続けているのは、やはり何かおかしいと、ご主人と共に子猫を探しに外に出てみたのです。

 

声はどうやらマンション敷地内の庭の草むら辺りから聞こえてくるようです。

しかしもう深夜。闇の中の草むらから探し出すのは至難の業です。

それでも彼女らは鳴き声を頼りに、草をかき分け懸命に探しました。
そして、本当にわかりにくい場所に隠されているように居た二匹のまだちゃんと目も開いていない子猫を見つけるのです。

彼女はこの幼き子猫達を放っておくことが出来ず、保護しました。

彼女曰わく、「野良で、母猫が育児放棄してたみたいです」とのこと。

「翌日獣医に診てもらったら生後5日位と言われました。
当時は動物NGの住まいだったため、はじめはそこの動物病院にしばらく預かってもらって、飼い主を探すつもりでいたのですが、ちょいちょい様子を見にいくうちに情が移ってしまい飼うことになりました。」
と、Aさんは子猫達が家族の一員として迎えられるに至った経緯を最初のメールでこう綴ってくれています。

こうして生まれてからずっと一緒の姉妹の猫は、Aさん達の元で、その後も共に寄り添って同じ月日を生きてきたのです。

 

世の中、上には上があるとは言えど、一般的に見れば19才という年齢は猫にしたら超高齢とも言える訳で、でも二匹共に、これまで持病もなく、健康に過ごしてきたということからも、いかに日々を満たされて過ごして来れたかが伺い知れます。
時々喧嘩はすれども、そうは言ってもやっぱり仲の良い、そんな二匹でした。

そんな分身のような姉妹を亡くし、遺されたアコちゃんもどれほど動揺していることか。
私はそれも心配でした。

亡くなったキコちゃんの霊視をしてみると、死後日が浅く一週間も経っていないこともあり、天への入り口である幽界にはまだ上がってはいないようでしたが、もう光に包まれ、今日明日にも上がるであろう様子でした。

でも、キコちゃんが亡くなってから食欲も元気も無くしてしまっているアコちゃんのことを気にしているようでした。

 

そんな亡きキコちゃんを見守るように、完全に光に包まれた「光の存在」である別の猫が浮かび上がって視えていることに気付きました。
キコちゃんを導く、キコちゃんの守護存在だろうかと思いました。

意識を向けた時、その答がわかりました。

それは、キコちゃんとアコちゃんのお母さん。…そう、姉妹の母猫だったのです。

判明した事実はこうです。

その茶トラ模様の母猫は、生まれてまだ間もない乳飲み子の我が子達を安全な場所に隠し置いて、その日、食べる物を探しに出掛けました。
子猫達にお乳をやらねばなりませんからお腹も減るでしょう。

 

しかし不幸なことに、道路を横断していた時に運悪く車にはねられてしまったのです。茶トラのお母さん猫は子猫達を遺して絶命してしまったのでした。

どんなに心残りだったか。
自分が居なければ生きていけない子供を遺し先立つことが、どんなに叫ぶほど悔しく、受け入れ難かったか。

 

ちょっと待って
わたしはまだ死ぬ訳にはいかない!
子供達の元にわたしを返して!

 

そんな狂うばかりの思いも、壊れた身体にはもう応えることが出来ませんでした。

Aさんは、子猫達が母猫に飼育放棄されたと思っていましたが、実はそうではなかったのです。

戻りたくても、その肉体はもう、戻ることが叶わなかったのです…

それでも母猫は霊体になって子猫の元に戻りました。子供達の元に帰りたい。その必死な思いからです。
でもお腹をすかせて子猫は母親を呼び始めます。
けれど母猫にはどうすることも出来ない。

母猫は誰か助けて誰か気づいてと願いました。

それに応えたのがご相談者のAさんだったのです。
心優しい彼女だからこそ、それが届いたのでしょう。

こうして優しい人達に救われた子猫達に母猫はずっとついていました。
Aさんの家にもついて行きました。
病院に預けられてる間も子猫達と一緒にいました。

 

子猫達を助け、病院にも度々様子を見に来るAさんがいっそのこと子猫達を迎えてくれないだろうかと母猫は思いました。
そして母猫の願いは再びAさんに通じました。

 

離乳してご飯を自分で食べられるようになった頃、子猫達はAさんに抱かれ、病院を後にして彼女の自宅に迎え入れられる訳ですが、その時も母猫は自宅までついて行っています。

家族として迎え入れてもらったことを見届け、母猫はようやく心から安心出来ました。

 

ここなら大丈夫
わたしの大切な子供達はここで可愛がってもらえる
お腹いっぱい食べる物をもらえて、安全に、幸せに、姉妹一緒に仲良く生涯を過ごせる

 

そう確信できたのでしょう。

そうして母猫はやっと天に上がることが出来たのです。

茶トラのとても愛らしかったお母さん猫。
本来ならばもうとっくに幽界を経て、霊界(天界)へと上がっていた頃であったでしょう。

でも子猫達の行く末が心配で子猫達を遺して行くことが出来なくて、母猫は天に行くに行けなかった。

でもAさんという救いの手がもたらされたことによって、母猫も救われた。
そのおかげで、やっと安心して、行くべき場所に向かうことが出来たのです。

Aさんは、二匹の子猫達だけでなく、こうして亡き母猫をも救っていたのです。
そう、三匹の猫を…

よく猫の恩返しなどと言うけれど、その後、天に帰った母猫と天界の存在達から、Aさんにお礼がもたらされています。
助けてくれてありがとう、という感謝と共に。

 

Aさん曰わく、当時、それまでなかなか決まらなかった仕事が急に決まったりとかあったそうですが、それより何よりもAさんが受け取った一番大きいものは、彼女と家族の日々の健康と無事です。

当然ながらAさんは気付いていなかったけど、Aさんと家族はずっとこの母猫に守られていました。
Aさん達を守ることは、我が子達を守ることでもあったから…

母猫は二匹の子猫を産んだ日から、いや、お腹に宿った時からと言っていい。自らの生命を終えてからもずっと、我が子達を守ってきた。19年という年月のこれまでも、そして今も、なお。

またそして子猫達がAさんの家族の一員として迎え入れられたあの日から、時が流れても変わることなく、Aさんと家族のことをも…

その結果、この19年の月日の中で、Aさんは彼女の魂がずっと望んできた自分らしく生きるという未来への歩みも果たすことが出来たようです。

私達は気付いていないけれど、本当に沢山の見えない愛の力にいつも支えられている。

彼女もまたそうであったのです。

彼女は子猫達のことを飼育放棄されたと思い込んでいたから、戻りたくとも戻れなかった亡き母猫のことなど知るよしもなかった。

ましてその子が子猫達のみならず自分達家族のことまで守ってくれていたなんて、微塵も想像すらしていなかったのですから。

そんなふうに、私達はただ知らないだけで、自分の起こした愛の行動が種となり、やがてどこかで新たな芽や縁を生んでいることだってあるのです。私は思います。
『自らの行いは良いも悪いも自らに返る』と…

 

Aさんが子猫の鳴き声に気付いた19年前のあの日の夜。
当時住んでいたマンションには住人も沢山いた。
当然鳴き声に気付いた人も少なからず居たでしょう。でもAさん以外誰も、実際に子猫達を助けに行こうとした人は居なかった。
Aさんとご主人だけが、思いを行動にしたのです。

 

この彼女の優しさと行動が、後に彼女を守り導く愛の力になって彼女に返ったのだと…

愛は巡る
愛あるところに愛は更に大きくなって巡り来る

そんなことを改めて痛感しました。

Aさんにはこれからも、そんな心優しい素敵な彼女のままでいてほしいと思います。

さて、もう一つ私が気になっていたこと。それは遺されたアコちゃんのこと。

ずっと側に居た存在が突然居なくなる悲しみ。
これは人間だけでなく動物達とて同じ。

彼らの方が人間より魂の意思と肉体の意思が繋がっているから、彼らは魂レベルで死を人間以上に自然に受け止め理解しているところもあるとは言えど、もうその温もりに触れることが出来ないこと、声や姿をもう聞くことも見ることも出来ないこと、その悲しみや淋しさは彼らだって同じなのです。

いえ、もしかしたら彼らの方が人間以上なのかもしれない。
なぜなら、彼ら動物達は愛そのものの魂の存在達だから。

だから彼らは時に人間以上に豊かな感情を持つことさえある。いえ、これも、人間をはるかに上回っているのかもしれない。

それゆえ、仲間が亡くなった後、病気になったり、まるで後を追うように亡くなってしまう例も決して少なくない。
(以前『見えない涙』の項で詳しく取り上げています。ご参照下さい。)

何もわかっていないよう感じていないように見えても心の内に大きな悲しみを秘めているかもしれないのです。

ですから私はAさんに、これまで以上に、最大限、遺されたアコちゃんをいたわり愛してあげてほしいとお願いをしました。

スキンシップと優しい声かけ。一緒に寝てあげる、など、出来ることは全て全身全霊でしてあげてほしいと。

アコちゃんは生まれた時からずっと19年もキコちゃんと共に生きてきたのだから、なおさらです。
アコちゃんの悲しみを思うと何ともいたたまれない思いでいっぱいになりますが、心優しいAさんですから、きっとアコちゃんを守り癒やしてくれるはずです。

それに、これからは母猫だけでなく、キコちゃんも一緒に、遺されたアコちゃんとAさん達を守ってくれることでしょう。

だからアコちゃんもきっと大丈夫。
今はそう信じています。

そして、Aさんに手厚く愛情をかけてもらっているアコちゃんの様子を見たら亡きキコちゃんも安心出来るでしょうから、キコちゃんもこれからお母さんに導かれて天へと向かうことでしょう。

いつか天でまた会う日まで、しばし離れて過ごすことになるけれど、キコちゃんとアコちゃんは「二個一」みたいなところがあって、過去世からずっと一緒の魂だから、天で再会したら、またずっと共に、そして恐らく来世もまたずっと、寄り添っていくことでしょう。

その日が来るまで、アコちゃんにはキコちゃんの分まで、さらにうんと元気に長生きしてほしいものです。

 

ちなみに、キコちゃんアコちゃんがこれまで病気も無く健康に長生きしてこれたのも、親猫から受け継いだ遺伝子というのもあるでしょうし、心優しいAさん達の愛の元で穏やかに楽しく過ごしてこれたことも大きいでしょうが、何より亡き母猫が守ってくれていたからだということも、もう言うまでもありませんね。

 

健康に生きられる遺伝子を受け継ぐこともまた、親からの愛のプレゼント。

キコちゃんアコちゃんは早くにお母さんを亡くしてしまったけれど、その身体にもちゃんとお母さんの愛を宿して、そして天からもずっと愛され守られてきたのですから幸せです。

母の愛に種の違いはない。それはどこまでも大きく深く暖かい。

それをこの茶トラのお母さん猫が改めて教えてくれました。

鑑定を終えてAさんは言いました。
「命は尊くてかけがえないもの、決してあって当たり前のものではないもの…
ということが、今回よくわかりました。」と。

そして彼女は子猫達を遺して命を終えねばならなかった茶トラのお母さん猫にも想いを馳せ、泣いてくれました。

茶トラちゃんもAさんに自分のことを知ってもらい、自分にも愛を向けてもらえたことが、きっと嬉しいはずです。

だって愛は何にも勝る、魂にとっての財産ですから。Aさんの優しき愛は茶トラちゃんの冥福にもきっと繋がることでしょう。

この世には生と死がある…
生きることは常に死とも隣り合わせ。
この瞬間まで輝いていた生が次の瞬間には無くなってしまうことだって、この世ではある。
それが物質界というこの世の定め。

けれど例え死が肉体を奪っても、魂と愛だけは決して無くなりはしない。

死という別れは悲しいものだけど、愛はきっとそれを越える…

今回のご相談事例も悲しいお話しであったけれど、やっぱり、そこにこうして大きな愛がありました。

そして今回のお話しを通して、Aさんと同じように心優しい人達に伝えたい。

もし母親の居ない子猫に遭遇した時、もしかしたら、その子猫達は今回の事例のように、母猫が何らかの事情で子猫の元に帰れなくなってしまったのかもしれないこと。

その子猫達には、「どうかこの子達に救いの手を差し伸べてほしい」という母猫の願いがかけられているかもしれないこと。

あなたがもし、その子猫達を救った時、その子達だけではなく見えない別の子をも救えるのかもしれないということ。

そんなことをどうか頭の片隅にでも覚え置いていて頂けたらと思います。

そしていつかあなたの前に助けを必要とする、か弱き存在が現れた時には、どうかその優しい手を差し伸べられるあなたでいて下さい。

 

その優しさはいつかきっとあなたを助けてくれる力になって、あなた自身に戻るから…

世界が優しい人でいっぱいになって、全ての動物達が皆、愛と喜びの中で生きられることを心から願っています。

 

  

  

 次の事例はこちらからご覧下さい。

 

    

  

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